東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)18号 判決
本件審決が、本願商標と引用登録商標と称呼上類似しているとした判断に誤りはなく、原告の主張は理由がない。
(一) 頭音の語感の相違について
両者の頭音「ビ」「ピ」がともに両唇破裂音であり、音素「i」をもつことはいうまでもない。ところで両音には標準的な音声学上からの見地からすれば原告の主張するように発声上の強弱の差があることは当然であり、また成立に争いのない甲第九号証によれば音響工学上原告主張のような音波の波形・単複の差異のあることも認められる。しかしながら商標から生ずる称呼類似の問題は、その構成音上対応する一音だけの比較では足りず、構成音が結合された称呼全体として検討しなければならない。
従つて右のような差異があるといつても、称呼全体として検討すると、商取引上需要者一般の間には、地域・習俗・年令・生理などが手伝つて言語生活の地域差・年時差・個人差があるから、そこからくる転訛・発声上の混同・ゆがみ・聞き違えも予想できるので「ビ」「ピ」間の類似性を否定するものとはいえない。
(二) 構成音数の強弱と相違音の位置について
原告は両者とも、第二音の母音「オ」に比して「ビ」「ピ」がいずれも音素「i」をもつため語頭高の二音節語である旨主張するけれども、アクセント・イントネイシヨンについては地域差・個人差・年時差があるので、両語は必ずしも語頭高と一定できるものとは考えられない。のみならず、かりに語頭高であるとしても、もともと前示のように需要者一般に対しては、音韻構成の標準的な発声・聴取が必ずしも期待できないから、そのことからただちに称呼全体としての類似・混同を否定できるものとはいえない。
(三) 観念との関係について
本願商標における「BIO」は成立に争いのない甲第一〇・一一号証の各一、二によれば「生」「生命」の意を示す接頭辞であることが認められるけれども、わが国ではまだ「生命」を意味するものとして日常・一般に親しまれているものとは認めがたいから、この点に関する原告の主張は検討に値しない。
そうすると、本願商標と引用登録商標とは、両者の頭音「ビ」「ピ」がともに両唇破裂音で、母音「i」を伴う近似音であること、しかも両者は末尾音「オ」を共通にする二音節語であることから、全体として呼称するとき、極めてまぎらわしい近似性をもつことが認められ、称呼上類似した商標といわざるを得ない。
原告がその主張にそうものとして指摘した過去の商標登録例、その他の証拠によつて認められる商標登録・審査例の存在は、いずれも前掲説示にてらし、この判断を左右するものではなく、他に前記判断をくつがえすに足りる証拠はない。
〔編註〕 本件における審決理由の要点は左のとおりである。
本願商標は、ゴシツク体風に「ビオ」の片仮名文字を左横書し、その下段にセンチユリー・ボールド体風に「BIO」の欧文字を二段に併記してなり、第一類化学品(他の類に属するものを除く。)、薬剤、医療補助品を指定商品とするものである。
ところで別紙第三の登録第四四四三四〇号商標(以下「引用登録商標」という。)は、ゴシツク体で「ピオ」の片仮名文字を縦書してなり、旧第一類化学品、薬剤および医療補助品を指定商品とするものであるが、本願商標と比較すると、外観上は上記の構成から互いに区別できる差異がある。しかしながら称呼上よりみると、本願商標からは「ビオ」の称呼を生じ、引用登録商標からは「ピオ」の称呼を生じ、共に二音からなり、その末尾音の「オ」を共通にし、かつ頭音に「ビ」と「ピ」の音の差があるとしても濁音と半濁音の微差にすぎず、極めて近似した音であるから、全体として称呼するとき、両者は相紛らわしく、類似しているといわねばならない。また両者の指定商品も互いに抵触することが明かであるから、観念上の類否に及ぶまでもなく、本願商標は商標法第四条第一項第一一号の規定に該当し、登録を受けることはできない。